江戸しぐさ



しばらく前のことになりますが、電車内の広告で、「傘かしげ」、「腰浮かせ」、などの、『江戸しぐさ』、なるものが紹介されておりました。
「傘かしげ」とは、雨の日に狭いみちですれ違う時に、ぶつかったり、しずくがかかったりしないよう、傘をかしげあって気配りして往来するしぐさ。「腰浮かせ」とは、混み合った乗合い船(現代なら電車)で軽く腰を浮かせ、少しずつ幅を詰めながら1人分の空間を作るしぐさ。
これを読みましてから、雨の日の路地や、電車内でこのようなしぐさを見かけると、(あ、江戸しぐさ)、と喜んでおります。
江戸しぐさ』、他にどのようなものがあるのか少し調べてみました。

・「三つ心、六つ躾、九つ言葉、十二文、十五理で末決まる」といって子供を教育した。三歳までに素直な心を、6歳になるとその振る舞いに節度をもたせ、9歳では人様の前でも恥ずかしくない言葉遣いを覚えさせ、12歳ではきちんとした文章が書けるようにさせ、15歳にもなると物の道理がわかるようにしなければならないというものであろう。この教えは現代にも通用する教育論である。
・「お心肥やし」。江戸っ子は教養豊かでなければならないということをこう呼んだ。ここでいう教養とは読み書き算盤のほか、人格を磨く事が何よりも大切なのだという意味合いが強く込められている。
・「打てば響く」。江戸っ子はすばやく対応することを身上とした。当意即妙の掛け合い、初対面で相手を見抜く眼力など、その切れ味が真骨頂とされた。
・「三脱の教え」。初対面の人に年齢、職業、地位を聞かないルールがあった。これなどは身分制度を全く意識させない教えであり、相手を思いやる心と、人を肩書きだけでは判断しないという、何事にも捉われない意気込みがみてとれる。
・「時泥棒」。江戸城の時計は一分の狂いもない正確なものであった。このため、幕府に仕えている武士ばかりではなく、商人たちも時間には厳しかった。現代でもまったく、同じことなのだが、都会人のマナーというべきであろう。
・「はいはい」。物事を頼まれた時の返事は「はい」の一言でよい。一人前の大人に返事を繰り返すことは、目上の人に向かって念をおす行為と受けとられ、してはならない失礼とされていた。
・「指きりげんまん、死んだらごめん」。人間の約束は必ず守るとされた。たとえ文章化されていない口約束でも絶対に守った。「死んだらごめん」とは命にかけて約束を守るということなのだ。
越川禮子;「江戸しぐさ」、講談社より)

他にも、

・「忙しい、忙しい」と言わない。
・「そんなに偉い方とは知らずに」と言わない。
・知ったかぶりをしない。見てわかる事を聞かない。
・人の話を真剣に聞くときにメモをとらない。
・自分と違う意見をないがしろにしない。
・相手の感情を逆なでする言葉を使わない。
・人に行き先をむやみに聞かない。
・紹介者を飛び越えて親密にならない。
・口先でなく目で人を判断する。
・足を踏まれたら、うっかりしていましたと謝る。(うかつあやまり)

などなど、なるほどと思うことばかり。
世界有数の人口過密都市だった江戸で生まれた江戸しぐさ。全国各地から言葉や習慣の異なる人々が集まった江戸で商人を中心にはぐくまれたとのこと。今の世でも、何も変わることはなし。心がけたい、と。
※画像は、兵庫県立芸術文化センター、オペラ『蝶々夫人』オリジナルグッズの扇子。