3月20日(火)腹痛



朝から食欲がなかったのですが、何か少しは食べなくては、と納豆ご飯を一杯、なんとか食べて出社。仕事をしながらも、みぞおちの痛みは少しずつひどくなり、6時に退社する頃には思わず誰もいない事務所の床に横たわって激しい痛みをやり過ごすほどに。娘に「あまりにみぞおちのあたりが痛いので、これからT病院に行こうと思う」、と連絡をし、病院にも電話を入れ、身体をくの字に曲げつつタクシーに乗り込み病院へ。
救急室に入り、看護師さんに症状を伝え、当直の医師の到着を待つ間、寝台に横たわりながらも「ううっ、痛い、痛い…」、と絶え間なく呻いてしまうほどの痛みに。それでも大きな病院ということもあってか、事故や病気で次々運び込まれる患者は重症者も多く、カーテンの向こうからは、「脈があるかどうか確かめて」、「○○さん、わかりますか?○○さーん」と意識があるかどうか確認をする声なども聞こえてまいりまして、命があることに感謝を。
ずいぶん長く待ったように思うのですがようやく当直医が到着。お若い女性の先生です。症状と経過を説明。朝から、ご飯一杯しか食べていないということもあり、栄養補給と痛み止めの点滴を受けつつ、血液検査を。一向に治まらない痛みにうんうん唸っておりますと、先生が「辛そうですね。そんなに痛みますか?」、と。「痛いです。私の人生の中では出産の時の陣痛に次いで痛いです」と答えましたが、後で聞いたところによりますと、急性膵炎の疼痛というのは激しい場合が多く、時には麻薬などの強い鎮静剤を使用しなければならないこともあるほどのものなのだとか。


エコー・CT・レントゲン




暫くいたしまして、当直医が血液検査の結果を手にまいりまして、「痛みますか?これは痛いはずですね。血液検査の結果、膵臓が炎症をしていることを示す数値がものすごーく高いんですよ。」と。「ちょっとエコーの検査をしますね。」とお腹にゼリーを塗られ超音波検査。
次いで「これからすぐに、CT(コンピュータ断層撮影/Computed Tomography)の検査を受けていただきますからね。」と。造影剤を使用するとのことで、それについての問診を受け、承諾書にサインを。何やら物々しい雰囲気になってまいりました。「はい、では車椅子で移動しますね」と、生まれて初めて車椅子に乗せられ、検査室へ。
CTってどういう検査なのかしら、と思いましたら、検査室にどんと置かれておりましたのは、巨大ホワイトチョコレートがけドーナツのような装置。検査技師のお兄ちゃまに承諾書を手渡し、ドーナツの中心部分にある台に横たわり、検査開始。まずは、造影剤を打たずにそのままドーナツの中にすーっと入ってまいりまして、「息を吸って…吐いて…そのまま息を止めてください。………楽にしてください。」との音声に従って数枚撮影。
この時不思議に思いましたのが、巨大ドーナツのちょうど目の前の部分に、小さな長方形の小窓があり、中で赤いライトがちらちら動いていて、気になってつい見てしまうのですが、この小窓の上には、「窓の中を絶対に覗き込まないでください。」とシールが貼られているのです。決して覗いてはいけない小窓が、何故ちょうど目の前に開けられているのか。なんですかまるで、禁断の果実のよう。
次いで、付き添っている当直医が造影剤注入の為の針を右腕に刺し、ついでに検査の為に大量に血液を採り、まるでロケット発射台のような台にセットされた造影剤の大きな注射器がその針に繋げられ、準備完了。検査技師に、「造影剤を打つのは初めてなのですが、何か体に変化はあるものなのでしょうか?」と訊くと、「全身が燃えるように熱く感じるのだそうです。私も実際には打ったことがないのいでわからないのですが、皆さんそうおっしゃいます」、と。えーん、怖いです。ぼわっと体が燃えるように熱くなる。脳裏に浮かんだのは、超人ハルクが変身するシーン。怖がっている間にも容赦なく、検査は進み、「はーい、では造影剤が入りますよー」との技師の声が。どきどき。あ、ほわーっと温もりに包まれるような心地よい暖かさが。なーんだ、これでしたらぜんぜん問題ありません。二度に分けての撮影が終了し、検査室に戻ってきた技師に、「ご気分悪くないですか?大丈夫でしたか?」と訊かれ「はい、とても心地よい暖かさでした。ぜひ一度試してみてください」と。
医師からは、「やっぱり膵臓がすごく腫れています。これは緊急入院をしていただくことになりますね」との話が。え、緊急入院?続いて、腹部と胸部のレントゲン撮影もいたしまして、ようやくまた急患の部屋へ。




緊急入院



ここで、この後私の主治医となります、I先生が登場。
I:「膵炎であることは間違いないです。お酒、かなり飲むでしょう。」
e:「いえ、それほどでも」。普段飲んでいる量を説明しますと、
I:「その程度ではこうはならない」
e:「このところ、仕事が忙しかったりストレスがあったりもしまして」
I:「あ、じゃそれもあるかも。でも、そうとう飲まないとこうはならないから。もうこれからは絶対禁酒ね。」
e:「ええっ!、もう一生お酒は飲めないんですか?」
I:「一生とは言えないけど、まあ、もうお酒はやめたほうがいいね。飲んで再発する人多いし。今からすぐに緊急入院してもらうから。」
e:「やはり入院ですか。先生、私明日誕生日なんですよ。シャンパン飲むのを楽しみしていたのに」
I:「…禁酒しなさい禁酒。のん気なこと言ってるけど、数値は近年稀にみる悪さ。この後重症化した場合、3割ぐらいの確立で死ぬから。医者仲間で、急性膵炎って言ったら、ああ、それは怖いね、っていうような病気だよ。」
e:「はい。お腹痛いぐらいで、救急で見ていただくの申し訳ないかと思っていたのですが、来てよかったです。」
I:「そう、今朝発症で今でしょ。せめて早めに病院に来たのはよかった。もう2、3日してから来ていたら命はなかったよ」
e:「はい。よかったです」
I:「治療としては、一週間の断食と点滴。水も一滴も飲んではだめ。どうしても我慢できなかったら、氷で唇を湿らす程度。自分の消化酵素で自分の膵臓を消化しちゃっている状態。何しろ口から何かが入れば消化酵素を出してしまう。今も膵臓は溶け続けているんだからね。」
e:「うわ。どのぐらいでよくなりますか?」
I:「うーん、重症化しなければ二週間ぐらいかな。私が主治医になると思います。なにしろ、隠れてなんか飲んだり食べたり、絶対にしないことね。隠れてお酒なんか飲んだりしたら、それこそ死んじゃうからね。」
e:「はい、わかりました。絶対にしません。きちんと言いつけを守る、いい患者になりますので、治してください、宜しくお願いします。」
I:「あと、尿の量がとても大事だから、ちゃんと測定してね」
続いて事務の人がまいりまして、入院診療計画書にサインをしたり、差額ベッドの料金を了承したり、の手続きがあった後、車椅子で病室へ。この間、少し離れたところから、I先生の、「本人、のん気にしてるけど、命に係わる怖い病気だからね。」と看護師達に伝える声が。


病室へ



家族に連絡をしてもいい、との許可が出ましたので、急ぎ娘と母に、病名と緊急入院することだけを携帯から電話。すぐに看護師さんから「お迎えですよ」と声がかかり、車椅子で病室へ。この時、母との電話を、「あ、お迎えがきちゃったから。じゃあね。」と言って切ってしまったので、(お、お迎えが来ちゃった?……)と、母は心配で眠れなくなってしまった、と後から聞きました。おかしな切り方をして申し訳なかったです。
さて、案内されましたのは消灯後の暗い病棟。隣のベッドが空いている二人部屋。まさか入院になるとは思わず、何の用意もしておりませんでしたので、とりあえず検査着というものを借り、それに着替え、ベッドに。すぐに3つもの点滴が開始。心電図モニタが胸に取り付けられ、検温、血圧、血中の酸素、などの測定。当初、トイレにも車椅子で、という話だったのですが、そういたしますと、ナースコールを押して、看護師さんを呼び、連れて行っていただかなくてはいけません。この頃には強い痛み止めが効いてまいりまして、お腹の痛みはだいぶ楽になり、歩けるようになっておりましたので、それを伝え自分で行けることに。
トイレに行く際の注意点、しなくてはいけないことを看護師さんに教えてもらったのですが、これが慣れないうちはなかなかに難儀でした。まず、点滴台に取り付けられた微量点滴用の装置のコンセントを抜き、心電図モニタのコードを装置から抜き、3つの点滴プラス、重い微量点滴の装置が付き、頭でっかちでバランスの取りにくい点滴台をがらがらとひっぱって暗い廊下をトイレまで。名前の書かれた採尿用のおまるを手に、狭い個室に点滴台と共に入りまして、点滴のチューブやらモニタのコードやらを捌きながら、おまるを設置。用を済ませ、おまるを外し、ウォシュレットを使い、出ましたら、今度は採尿装置の前へ移動。タッチパネルで自分に割り当てられた番号を押し、蓋が開いたら尿を入れ、測定。終わりましたら、おまるを洗い、手を洗い、またがらがらと点滴台を引いて病室へ。点滴の装置にコンセントを繋ぎ、モニターにコードを差込み、ベッドに横たわって完了。ふう。
しかも、この夜の病棟はたいへん慌しく、ナースコールは鳴りまくり、看護師さんは走りまくり。そこかしこから苦しそうな呻き声や「うー、痛いー。痛いー!!!」の叫び声が聞こえ、物心つきましてからは出産での入院経験しかない私としましては、病院の夜というのはこんなに騒がしく恐ろしいものなのかとびっくり。私の病室にも、点滴の交換や、血圧などのチェックのために入れ替わり立ち替わり看護師さんが訪れ、入院最初の夜はとてもゆっくりと眠ることができる状況ではありませんでした。