Toshi Yoroizuka に学ぶ「世界一幸せなキャリア開拓法」



東京ミッドタウンのカンファレンスルームで、鎧塚俊彦さんのセミナーを受けてまいりました。
話題の人、ということもあってか会場に入りまして、まず報道関係者席の多さに少々びっくり。聴講者は、お見受けいたしましたところほとんどが仕事を持った若い女性。中には北海道から駆け付けた方もいるとか。
登場いたしました鎧塚さんは、白のコック服に高さのあるコック帽。お話は…

パティシエは世界一幸せな仕事、それは幸せを演出する仕事だから。例えば、「今日は特別な日なんです」、「今日は誕生日なんです」、とお客様がレストランにいらっしゃる。でも、料理というのはあまり特別なことはできない。結婚記念日だからといって、お肉をハート型にするわけにもいかない。そこでシェフはパティシエに「頼むぞ!」、と託す。特別なそのイベント、特別なその人のためだけのデザートを作ってお出しする。欧米の方は表現がオーバーなので、感動して泣かれたこともある。自分のためだけの特別なもの、というのが大切。日本の結婚式ではよく、一部分を取り替えるだけで使いまわせる大きなケーキが使われる。それよりも、どんなに小さくても、“自分のためのケーキ”。
野球部の先生が、「お前は頑張ればイチローになれる」、なんて言う。でも申し訳ないが、どんなに頑張ってもまずイチローにはなれない。でもパティシエにはなれる。お菓子作りが本当に好きなら、好きなことで食べられるのは幸せ。センスがない?センスは後からの努力で補えます。不器用?私はこう見えても本当に不器用。器用な人はかえってだめ。何でもすぐにできてしまうので、そこまで。不器用な人は、出来ないから何度も何度も繰り返す。繰り返しの中から幅、奥行き、深さが出てくる。後から強い。
ケーキに限らず、これからの職人、物づくりをする人間が抱える大きなテーマ。それは、インターネット上の書き込みに振り回されないこと。あそこの店は美味しくなかった、味が落ちた、などという話を気にし過ぎてダメになってしまう人がいる。何を書かれても、お客様の声として受け止めはするが、自分でフィルターにかける。「わかってくれる人だけがわかってくれればいいんだ!」、という頑固一徹の職人のようになってしまうのも、また違うと思っている。が、そういう人が実は大好き。
恵比寿で5人で始めた店。遮二無二がんばって、今はその10倍ほどの人スタッフを抱えるまでになった。正直言って、急激に大きくなり過ぎた。ジェノワーズ(スポンジ)というのは思いっきり泡立てて焼けばいいというものではない。泡立てて泡立てて焼いたジェノワーズというのは、焼き上がりは膨らんでいるがすぐにすっと落ちてしまう。思いきり泡立てた生地を最後に泡をつぶして、きめ細かく整えて焼く。Toshi Yoroizukaも急激に膨らんだ状態。今、大きな転換点、再構築の時期だと思っている。
私はお菓子を作るのが大好き。朝から夜中まで作り続けても少しも辛くない。でも、はたしてスタッフはどうなのか。「並ぶのが辛い」、とお客様に言われる。では、他にラボ(厨房)を作って大量生産をするのか。それで味が落ちてしまっては元も子もない。もしくは、たとえば3時で売り切れじまいにするのか?それも違う。今の、サロンとショップの形態ではもう無理がある。サロンでは、一番美味しい、ぎりっぎりの状態をお客様にお出ししている。携帯でお客様が写真を撮っている間にも形がどんどん崩れてしまうほど。まず美味しいのは一番大切だが、目でも、耳でも、鼻でも、五感全てで楽しんでほしい。これは出来れば続けたい。
今考えているのは、田舎の果物が美味しいところに、焼き菓子の工場は作りたいと思っている。そこで収益をあげて、自分はずっとお客様にケーキを作り続けたい。理想は、1階はお菓子売場、2階はできたてのデセールを提供、3階はキッシュなどの簡単な食事ができ、4階、5階は厨房、6階休憩室。自分の目が届かないと絶対にだめ。若手に任せろと言われるが、任せられない。確かに、同じ盛り付けには仕上げられる。でも、見た目は同じでも、気迫、パワーが違う。若手に育ってほしいとは考えている。が、監督ではなく、自分はエース4番。ガンガン行くから着いて来い。育て上げるというより、抜け!追い越せ!その時にはちょっぴり足を引っぱって邪魔するぞ。(冗談ですが。)
これが基本だと考えているのは、昔の美味しいコロッケ。特別な材料は何も使わない。普通のじゃがいもと、普通の肉。きちんと作って、揚げたてを頬張れば、最高に美味しい。今、ダイニングなんていうお店でコロッケを頼むと、海老やホタテなんかがいっぱい入っていても、サクッとしていなくてべたべたしていて、ぜんぜん美味しくない。手間隙かけて、時間もかけて、お金もかけてまずくしている。ケーキもそう。奇をてらったことをしなくても、やるべきことをきちんとやる。当たり前のことを当たり前に愚直なまでに続ける。でも、それは実は毎日同じではない。これができるかどうか、職人としての精神力を試すことになる。
今回も、1つ大きな決断を下しました。よく、決断が間違っていた、というが、間違ったということはない、決断ミスというのはないと思っている。決断してから、その決断がよかったといえるように努力をすることが大切。

…などなど。
忘れないうちに記録を。
オーナーパティシエとして多くのスタッフを抱え、ただ好きなケーキを作っているだけでは済まなくなり、色々お考えのご様子。サロンを今の形で続けるのもなかなか難しいというお話もございましたので、目の前で鎧塚さんにデセールを作っていただける贅沢、今のうちに体験しておいた方がよろしいやも。