ひと時の英雄



箱根、強羅でのお話をもう一つ。『花壇』には、個室を含めていくつかの部屋があるのですが、今回は右手奥のやや大きなお部屋。他にもう一組、静かに楽しげに夕食を楽しむ若い女性ばかり4人のグループが。
献立も半ばまで進んだ頃のことです。一匹の大きな虫がフワーっと、室内に入ってきてしまったのです。山ですのでいたしかたないこと。でも、街の人間、特に女性は往々にして虫が苦手。かなり大きな虫ですが、見ればおそらくガガンボ。それでも、「刺す?」「刺すんじゃない!」「きゃー!!」と、女の子達はもう大パニック。ガガンボも静かに天井にでも止まっていればいいものを、部屋中をぶんぶん飛び回っているのです。ちょうど係りの方は部屋には一人もおりませんで。
私も、生足にすーっと虫の気配を感じたところでさすがに落ち着かず席を立つと、母が「大丈夫よ。気になるなら叩いてしまいなさい」と一言。では、と手にしておりましたナプキンで、近くに飛んでまいりましたところをばしっとあっさり退治。
もう隣のテーブルからはやんやの喝采、というのはオーバーですが、「ありがとうございます!」「これで落ち着いて食事ができます!」「助かりました!」と、ひと時、そのお部屋のヒーロー、(いえヒロイン?)に。再び静かに食事は再開。まいりました係りの方に、ナプキンを取り替えていただきまして、一件落着。山のガガンボは、旅館などに迷い込んだばかりに、とんだ災難。