どんかま



映画音楽の録音に初めて立ち会ってまいりました。(この程度はお話してもいいでしょうか、)来年公開予定の、渡辺謙さん主演の邦画。もう映像は出来上がっていて、それに合わせて秒単位で音を付けていく、という作業。小編成のオケとピアノで、場所は都内のスタジオ。
まず、何よりもびっくりいたしましたのが、録音をするペースの速さ。楽譜は当日渡し、よって皆初見(ぱっと楽譜を見て、その場ですぐに弾く、ということ)。奏者に楽譜を手渡し、その5分後には録音開始。今回は作曲者自らが指揮もいたしまして「じゃ、一回通してみまーす」、と通し終えるといくつか指示をして、もう次は「はい、じゃ録ります」と録音。と、すぐに「はい、では次の曲。これは最初から録っていっちゃいましょうか」と、まさにぶっつけ本番。しかも、曲によっては、繰り返す部分が、「ここからこう戻って、こうしてください。あ、やっぱりそうじゃなくて、こちらをこうしてください。ハープとフルートはリピート・タイムだけ入ってください。はい、じゃいきまーす」。で、音録り。誰一人、「え、もう一回説明を」などとは言いいません。皆さん、このペースをあたりまえの事のように、ミスなくそつなくこなしていくのですよ。さすが、スタジオ・ミュージシャンの仕事というのはこういうものか、とただただ感心。
私は、コントロールルームの隅っこで小さくなって聴かせていただいていたのですが、飛び交う言葉のなかには聞きなれない言葉がいくつか。録音する前に必ず皆に伝えられる「どんかま入りまーす」のこの「どんかま」。これは、一定のテンポの刻みをヘッドフォンで奏者全員が聞いていて、それに合わせて演奏していく、このクリック音のことをいうのだそうです。これによって、例えば4分10秒で、などというように、決められた長さぴったりの演奏ができるとのこと。便利ではあるのですが、かといってこれに合わせ過ぎると機械的な演奏になってしまうので、聞きつつ、聞かない、これがまた難しいとのこと。もう色々たーいへん。ちなみに、このドンカマ。今、調べてみましたところ、語源はコルグの【Doncanmatic】(ドンカマチック)というリズムマシンからきているとのこと。
このようにして、映画一本分の音楽を、3時間ちょっとで録り終えてしまうのです。私はちゃんと早くから楽譜を渡して、しっかりリハーサルを重ねてから録音するのだとばかり。プロのお仕事、見せていただきました。