燃え上がるデート



長く生きてまいりますと色々なことがあるものです。もうずいぶん前のお話になるのですが、場所は、一般的に名曲喫茶と呼ばれます、店内に流れるクラシック音楽を聴きながら静かに時を過ごす、そういったお店での出来事。時折小声で語らいながら珈琲をいただいていたのですが、彼が何本目かの煙草にライターで火を付けたその瞬間、前髪が少し長かったのでしょうかしらね、髪にライターの火が燃え移ってしまったのです。若草山の山焼きのように、頭部を舐めるように燃え広がっていく火。あまりの事に声も出せずにその火を見つめる私の驚愕の視線に、ようやく異変に気づいた彼は、慌てて手で頭を叩いて消火。火傷をすることもなく、意外なことに熱さを感じることもなかったよう。店内に漂う、ウールの焼ける臭い。店長さんにお詫びを申し上げて、お店をあとにいたしました。その後すぐに床屋さんに行ってカットし直してもらっておりましたが、こういった場合、髪というのは表面だけがめらめらと燃えていくもので、とんでもないヘアスタイルにはならずに済んでおりました。
今までで一番燃えた、デートのお話。