伯父と切り株



もう1つ、この伯父には忘れ得ぬ思い出が。ある日、伯父、母、私の三人で裏山の奥にある滝まで山歩きを楽しむことになりました。途中、形のよい流木や切り株を集めるのが好きな伯父が、斜面の上に残る1つの切り株に目をとめました。もうだいぶ朽ちてはいるのですが、手ではちょっと掘り出すことはできません。近くに落ちていた木の枝を手にした伯父は、それを使い、てこの原理で切り株を抜こうと。なかなか良い発想で、もう少しで木の根が地面からすっかり姿を現す、というその瞬間。信じられないような光景を、母と私は目にすることになるのです。つづく。
いえ、このままつづけましょう。予想外の勢いで切り株が抜けたため、その時伯父は切り株と共に横の斜面を落ちていってしまったのです、ぱたぱたと。そう、どう説明したらよいでしょう。まず最初に目にしたのはうわぁ、っという表情でやや万歳をしたような状態で仰け反るように後ろに倒れていく姿、そして次に見えたのは頭を下にした後姿、そしてまた万歳をしてこちらを向いた姿、頭を下にした後姿…だんだんと顔を紅潮させながら、ぱたぱたぱたぱたと伯父は長い斜面を落ちて行ったのです。「伯父…さん…」と絶句する母。
下まで落ちきったところで、二人で斜面を駆け下りますと、放心しながらも、気を失うこともなく上をむいて倒れた状態の伯父。幸い、どこかを切ったりはしていないようです。暫くいたしまして起き上がり、自分でもあちこち体をチェックしたようですが、おでこに少しかすり傷ができた程度でどこも問題なし。どうやら山の斜面がふかふかの土だったことと、運がよいのでしょう、木にも切り株にも当たることなく、ちょうど土の部分を落ちていったのが幸いしたようです。その後、命懸けで掘り起こした切り株を手に、予定通り美しい滝を見て、無事帰宅。
命でも落としておりましたら笑い事では済まされませんが、未だに母と伯父の話をいたします度に、この時のことを思い出して二人で笑ってしまうのです。今でも鮮明に目に浮かびます、あのぱたぱた。このような動きをする郷土玩具って、ございませんでしたっけ。