金のバスケット



六本木アマンドのパルミパイ。子供の頃、このパイが常に家にあったような。今はすっかり年老いて落ち着いてしまった父ですが、若かりし頃は夜な夜な銀座で飲んでは、綺麗どころを連れて六本木の闇に消えていっていた、とかいなかったとか。そして、手土産といえば銀座のお寿司屋さんの寿司折り、もしくは六本木アマンドのパイ。かりっと香ばしくて大好きではあったのですが、なんと申しましてもいつも家にありましたので、有り難みは薄いお菓子でした。その当時、確かこのパイはパタパタっとたためる針金細工のような金のカゴに入っていた、と。
一昨日、六本木店の前を通りましたので、懐かしくなってパイを買い求めるために店内へ。自分でこのパイを買うのは初めてのことです。ハート型のパイ、パルミエはすぐに見つけることができたのですが、店内を見回しましても金のカゴはございません。ちょうどレジの方が年輩の男性でしたので「昔、このパイは金のカゴに入って売られておりませんでしたでしょうか?」と伺ってみると「ああ、金のバスケットですね。はい、そうでした。あの頃はまだ何もない時代でね。このパイは珍しがられて、皆さんに喜ばれたものでした」と。そう、今のようにおいしいケーキ屋さんやお菓子屋さんがたくさんある時代ではございませんでしたものね。久々にいただいたパイ。記憶に残っている味とまったく変わらぬ、昔のままのお味でございました。