紙吹雪



母のお供で、明治座のお芝居見物に出かけた事があります。演目は『近松心中物語〜それは恋』 幕が開くといきなり森進一さんの歌。普段演歌は聴きませんし、ああ、このお芝居はちょっとダメかもしれない、と思ったのですが始まりましたらどうしてどうして。すっかり物語に引き込まれてしまって、主人公の忠兵衛と遊女梅川の死をかけた一途な愛にもう、うるうる。

そして、何よりもびっくりいたしましたのが終盤の吹雪のシーンです。開演前に母から「梅川役の富司純子さんが急性気管支炎のために降板して高橋恵子さんがその代役を務める事になったのは、あまりに凄い紙吹雪のせいらしい」という噂を聞いていたのですが、さもありなんというまさに猛吹雪。

と驚いている間に、その吹雪が客席にも。舞台から飛んできた雪で、というのではなくて客席までも一面雪景色にしてしまう演出だったんですね。見る見る観客の頭も肩も真っ白に。いったいどれほどの量の紙吹雪が使われたのでしょうか。幕が閉じると、すっかりヒマラヤの雪男のような姿になってしまった観客達は、少々放心気味で紙吹雪をはらい落としながらロビーへ。するとそこには、箒、はたき、掃除機などお掃除道具一式を装備した係の方が数名待機しておりまして、取りきれなかった紙吹雪を取って下さるようなシステムに。感心いたしました。

この吹雪、今までに見た舞台の演出で一番驚かされたものです。