湯島 『鳥栄』



湯島にございます『鳥栄』で軍鶏鍋をいただいてまいりました。
予約受付日の朝8時から電話をかけてなんとか予約を取り、忘れそうになりつつも楽しみにこの日を待つこと約3ヶ月。

下心のある人がお相手を連れて行くのには少々露骨過ぎる場所に建っております。とは申しましても100年以上続く老舗ですので、絵本の「ちいさいおうち」のように、変わってしまったのは周囲の環境の方。

趣のある木造建築の前に佇みますと、中からはトントントントンという軽快な音が聞こえてまいります。これが噂の叩いて軍鶏のつくねを作る音。扉を開けると「◯◯様、お待ちしておりました」と気持ちよく迎えられ、急な階段を登って2階へ。

案内された席には年季の入った小さな囲炉裏と小さな木の机。すでに炭がセットされておりまして、小さな鍋が載せられ、澄み切ったスープと小さな容器に入った味醂が加えられます。お祝いの席ですので熱燗をおちょこに一杯は自分に許すことに。突き出しは山葵の葉の醤油漬け。

丸皿に盛られて運ばれてまいりました軍鶏肉の艶々として美しいこと。スープが湧いたところで仲居さんがまずは作ってくださいます。塩梅よく決して煮立ってしまうことのない鍋の中に、静かに砂肝、血肝、胸肉、もも肉、長葱、豆腐が入れられます。これを、大根おろしに醤油をかけた染めおろし、と好みで山椒の粉を振っていただきます。

まず胸肉を。ああ、想像しておりましたよりも更に美味。胸肉ですのにしっとりと柔らかく、くせがなく、味も香りも良い。滋味、というのはこういう時にこそ使う言葉でございましょう。

静かに、味わいながらお肉をいただきますと頃合いを見て、スープを味わうための塩の入った蕎麦ちょこと、叩きに叩かれてねっとりなめらかなつくね種が運ばれてまいります。つくねには、葱、卵が入っていて、更に上にのせられた黄身にを混ぜることでちょうどよい柔らかさになるとのこと。

つくねを作り始める前にまずスープをいただきます。途中何度もつぎ足していただけるので、小さな鍋の中にはいつでもたっぷりのスープ。これを蕎麦ちょこに7分めほど入れて飲んでくださいとのこと。うわあ、これは素晴らしい。あまりの美味しさに、もう3分ほどおかわり。満足です。

そしてつくね。しっかりと火を通しましても中はふわっふわ。こちらも引き続き染めおろしと山椒粉でいただきますが、ただただ美味しく、飽きるということがありません。お祝いの席ですので、冷酒も自分に許すことに。幸せ。

たっぷりつくねをいただいたところで、またちょうど良い頃合いでご飯とお漬物、お茶が運ばれてまいります。こちらではお雑炊にせず、澄んでいながらも濃厚なスープをご飯にかけて塩味だけでお茶漬けのようにいただきます。これがまた思わず目を閉じて味わいたくなる美味しさ。染めおろしで食べても美味しいとのことで試してみましたが私は塩だけの方が気に入りました。ということでご飯も軽くではありますが3杯もおかわりをし、全てが満ち足りた状態でお店をあとに。

こぢんまりとしたお店ですのでお客様は5組ほど。中には袴姿の男性もいて、100年前もこうやって皆で軍鶏鍋をつついていたのであろう、と。ここがこうならなおよし、という部分がない。100年前と何も変わっていない、ということは完成されているということ。また機会がございましたら是非訪れたいお店です。