装い



ある日の夕刻、友人との会食会のため、着物を着て赤坂から六本木までタクシーで移動した時のことです。

近い距離ですので間もなく目的地、というところでタクシーの運転手さんが、「この辺りでお仕事ですか?」、と。

私:「いえ、そうではありません。」
タ:「では、出張かなにかで?」
私:「いえ、…違います。」
(ん?もしや、これは『黒革の手帖』の世界に生きていると思われているのでは。)
タ:「わかった、これからお客さんと待ち合わせでしょう?」
(わはは、やはりそのようです。せっかくですので話を合わせることに。)
私:「ええ、まあそんなところですね。」
タ:「あっ、やっぱり!請求書届けに行くんですか。」
私「うふふ。ええ、そうなんですよ。」

というところで残念ながら目的地到着。
夜の赤坂で髪をアップにして着物姿。高級(ではないかもしれませんが)クラブのやり手ママにでも見えましたのでしょうか。もう少し、払いの渋いお客様の増加に悩むママにでもなりきって、運転手さんと会話を楽しみたかったです。

また別の日のこと。自転車で走っておりますと、交番のお巡りさんが「こんにちは!」と挨拶を。こちらもにっこり「こんにちは」。ところがすれ違うお巡りさんが、次々「こんにちは」。二人、三人と続くと、これはもしや私は怪しい人に見えているのでは?

暫く経ったある日のこと、やはりこの日もお巡りさんから「こんにちは!」、と挨拶をされる。はて?確かに警察官のとても多いエリアではあるものの、普段はそのようなことは全くないのに。何故?考えました。わかりました、帽子です。いくつか持っております帽子のうち一つに『できるかな』のノッポさんのような帽子があるのですが、これを被った日に限って挨拶をされている。この帽子を被った私は、お巡りさんが挨拶をしたくなるような、怪しい気配を醸しだすようなのです。

といった2つの出来事から考えますに、装いというのは、その人の印象を決めるとても大きな部分を占めるということのなのでございましょう。