『骨董と旅』



ミッドタウンのd-laboで白洲信哉さん(文筆業・プロデューサー)のセミナーを聴いてまいりました。白洲さんは、白洲次郎・正子さんの孫にあたる方。家には古い汚い物が色々と飾られていた。その汚いものがある時美しく見えてきた、のが骨董との出会いだったとか。
こうして学生の頃に興味を持った骨董も、実際に自分で買うようになったのは三十代に入ってから。今四十代前半でいらっしゃいますので、ご自身で売買をするようになってからはまだ十年ほど。展覧会でガラスケースに収められた骨董は、ただ見るだけ。骨董の魅力というのはそうではなくて、やはり自分で使ってこそ。手に取り、唇で触れ、使い込むことによって無言の声をきく。好きな物は大事にするから割れないし壊れない。もしも割れてしまったとすれば接げばいい。東海道五十三接、といってネーミングの上手さもあり、接いでかえって価値の上がったものまである。
混雑している展覧会など行くものではない。すいている展覧会がなにより。イヤホンガイドも好きではない。まっさらな目で物を見るべき。
たいへん高価である李朝白磁なども、元は実は韓国の不良品のご飯茶碗だったりする。少し膨れてしまったものや、割れたものなど、あやうい不安定な物に美を見出し面白いと感じた人が持ち帰り、それを、利休や柳宗悦ら目利きと呼ばれる人たちが評価をすることによって垂涎の品となり、今や逆に韓国の財閥が必死に買戻していたりする。
よく骨董品は偽物を買わされるのが怖いなどと言うが、一流の骨董品店と付き合えば、決して偽物を買わされるようなことはない。何流かの店と付き合うから偽物をつかまされたりするのが、たとえ偽物であっても、自分がワクワクできるならそれでいい。骨董市、蚤の市もいいが、掘り出し物はない。値段なりです。
重要文化財というのもお役所の約束で毎年必ず増えていく。そんなことをしていたら最後は全部重要文化財になってしまう。実は重要文化財に指定された品の中にも、公にはできないが贋作だと美術館がこっそり認めているものもある…(えーっ!)、などなど、興味深いお話ばかり。
骨董についてのお話ももちろん興味深かったのですが、「茶道は好きじゃない。約束事が多い。ああしろこうしろと人に言われるのがだいたい大嫌い。茶会は時間はかかるし、ぜんぜん良くもない掛け軸などを拝んで有り難がらなくてはいけないのも嫌。貴方にはお茶よりもこちらの方がいいようですね、と言って奥から一升瓶を出してきてくれるような亭主の席なら出る」、「将来の夢は?などと聞かれるのは嫌い。どうなるかなんて分からない。日々、ちゃんと生きることが大切」、などと、白洲さんが、まるで言う事をきかないやんちゃな男の子ような方で、その一本筋の通った男らしいお人柄がとても印象深いセミナーでございました。
白洲信哉オフィシャルホームページ|SHIRASU SHINYA OFFICIAL WEBSITE