『企業と文化の関係』



お招きをいただき、辻井喬氏の講演、MAMアートコース第8回、『企業と文化の関係』を聞きに六本木ヒルズへ。会場は、アカデミーヒルズ49 タワーホール。
辻井喬さんの画像を拝見して、堤清二さんに瓜二つねえ、と思っておりましたら、なんとご本人でした。辻井喬は、堤さんの、詩人、小説家としてのペンネームとのこと。存じ上げませんでした。
その堤さんが、西武百貨店に入社されてから現在に至るまで、企業として、個人として、芸術文化をどのように支援し続けてきたか。この長期に亘る厳しい経済状況の中、今後、企業のメセナ活動はどうなっていくのか、また、美術館関係者が企業からお金を引き出すにはどうしたら良いのか、などについて、たいへん興味深いお話を伺うことができました。
へええ、と思いましたお話をいくつかご紹介。

楽家ジョン・ケージはキノコの研究家として有名で、博士号を持っていて、イタリアのある番組でキノコについて解答をして賞金を得、まだ作曲家としての仕事がほとんどない時代だったので、その賞金で3年間食べることができた。軽井沢に招いた折、ジョン・ケージはホテルの朝食を断り山に入り、よくわからないキノコをいっぱい採ってきて、炒めて皆にふるまったが誰も箸をつけなかった。彼が食べて30分して何でもないのを見て初めて皆も食べ始めた。
軽井沢の複数の別荘に、世界中から多くのアーティストを招いて宿泊してもらった折、日本の高名な画家が襲われてしまって大変だったこともある。アーティストにはホモセクシャルの人も多いものだから、同じ別荘になった人に夜襲われて、大柄な日本の画家が必死で逃げ出して助けを求めてきた。
インドのある貧しい村が、世界的な数学者をたくさん輩出している。それはなぜか。元からインド人が数学的才能を持っていることももちろんあるが、その村は、美しい風景のなかに、素晴らしい寺院が遺されていて、子供たちがその寺院を遊び場としている。数学は美学である。美しいものをたくさん見ることによって優れた才能が育ち、良いアイデアが生まれる。
企業からお金を引き出すために必要なのは、場数と忍耐。この時代、10件のうち、1件出してもらえれば良い方。議論して勝っても、説得をできなかったらダメ。言い負かしても、お金を出すのは向こうなのだから、相手の立場を考える。お金は(企業、財団などのものであって、担当者)その人のものではない、ということも考えなくてはいけない。一度でダメなら二度、二度でダメなら三度、三度でダメなら四度、と足を運ぶ。そのうちお互いに共同体意識が生まれてしまう。「この事業に協力すれば、あなたも名門企業の仲間入り」、とでもおだてて、良い気分にさせる。
先日話を聞いた、海外のあるキュレーターは凄かった。「お金を持ったまま死ぬのはよくない。お金をたくさん持っている人は天国へは決して行けない。神は金持ちを嫌う。天国へ行きたかったら死ぬ前に寄付をしてしまいましょう」、とキリスト教徒の恐怖心に訴えかけるんですよ。日本ではちょっと使えない技ですが。
日本の芸術文化は江戸時代までの方が勢いがあった。万葉集古今集源氏物語風姿花伝、いずれも世界の最先端をいっていたと言える。明治以降、保守的になってしまった日本人の芸術性をもっと出すべき。

などなど。
多くの前衛芸術を世に紹介し続けてきた辻井さん。ご自身を“軽率な好奇心”を持った人間だとおっしゃる辻井さんに肖るべく、私も“軽率な好奇心”を持ち続けたいと思います。
※インドの数学者のお話は、辻井氏が藤原正彦氏から聞いた話、とのこと。Susieちゃんからのメールを受けまして追記。