白鷺宝



奈良から引っ越してから結婚するまで、長く住んでおりましたので、浦和はとても懐かしい街。
訪れるのは十数年ぶりでしたので、きっともう知らない街のようになってしまっているだろうと思っていたのですが、拍子抜けする程ぜんぜん変わっておりませんで。駅からイトーヨーカドー横の細い路地沿いに並ぶ商店街に入り、旧中仙道へ。うわー、『須原屋』そのままじゃない。転校が中途半端な時期でしたので、教科書を買い求めに、浦和で最初に訪れた書店が須原屋。懐かしい。信号待ちをしながらその煉瓦作りの建物に見入っておりましたら、「あの、すみません、浦和市民会館へはどうやって行ったらいいでしょうか?」、と道を訊かれ、「あ、この辺りの者ではないのでちょっとわかりません、ごめんなさい」、と答えつつも、心の中では、(おお、地元民に見られたんだわ。さすが、長く住んでいただけあって、浦和市民ぽく見えたのね、あ、今は浦和区民でしたね)、となんだか嬉しく。須原屋の斜め前のうなぎ屋さんもそのまま、隣の奈良漬やさんもそのまま。お、奈良漬やさんの隣がきれいなビルになっちゃって、と思いましたら、そこが『うらわ美術館』、が入っているビルでした。
美術館で展示を見たあと、せっかく浦和を訪れたのですから、母に懐かしいお土産を買っていってあげましょう、と駅前にございます、創業明治8年の『ときわだんご』へ。嗚呼、売り場に並ぶときわだんご。餡子と黄な粉、二つの味を一緒にくるっと包む包装も以前と変わりません。この日、夜はコンサートを聞いて帰る予定でしたので、「今日、夜まで持ち歩いても大丈夫でしょうか?」、と店員さんに尋ねますと、「いえ、3、4時間が限度ですね。今日は暑いですし、夜まではちょっと無理です」、と。あらまあ、どうしましょう。では…食べていくしかありません。売り場奥の甘味処で、緑茶と共に『ときわだんご』を。真ん丸い素朴なお団子。そうそう、この味です。大満足。
『ときわだんご』がお土産にできないのなら、第二候補は『白鷺宝』(はくろほう)。こちらは、お遣い物にしたり、いただいたり、で子供はぱくぱくとは食べさせてもらえませんでした。黄身餡を焼きあげ、ミルクでコーティングをした、白鷺の卵のような上品なお菓子です。昔は一種類だけでしたが、今は種類が増えたのですね。珈琲をまぶした「かふぇ」、小豆こし餡にすり蜜をかけた「玉しずく」、などこの日も、8種類ほどが販売されておりました。こちらは帰宅いたしましてから食べましたが、やはり懐かしの味。新しいお味の『白鷺宝』もどれもなかなかでした。
子供の頃に慣れ親しんだ味を久々に味わう、というのは幸せなものです。