「文楽・人形の世界」  2



人形の衣装というのは、人間用の反物そのままでは柄が大き過ぎて使えないので、京都で特別に小さめに染めてもらったものを使います。
今回の講座の主な内容は、

第一部 文楽のいろは
第二部 文楽人形遣い
第三部 体験・文楽

こちらの画像は、『阿古屋』などで三曲(琴・三絃・胡弓)を演奏する場面で使用する特別な手。この日はなんと、『艶姿女舞衣』のお園さんが、ヴァイオリンでバッハのメヌエットを演奏をするという前代未聞の珍しい姿を見せていただき、たまげてしまいました。
三人の人形遣いが息の合った動きをするためにはやはり合図が必要。『主遣い』から『足遣い』への合図は腰。『主遣い』の腰と、『足遣い』の腕の一部が必ず触れているようにし、その動きで合図を送る。では『主遣い』と離れている『左遣い』にはどのように合図を送るのか。それは、人形の後頭部の辺りの動き。手の動きと視線は一致していないとちぐはぐな動きになってしまう。例えば、「あ、こんなところに物が落ちている」、と右下に落ちている物を右手で拾い、左手で受け取り、左に置く」などというしぐさを突然したとしても、『左遣い』はその頭のまさに微妙な動きを察して、きちんと動くことができる。『主遣い』としては、思い通りに人形が動いた時というのはたいへん気持ちがいいものだそうです。
他にも、頭とふにゃふにゃの体だけで一人遣いの『つめ人形』を使い、同じ人形でも遣い方一つで、侍にも見えれば、農民にも町民にも見えてしまうという実演。人形遣いは常に、「今、自分は何者で、何をしに出てきているのか」、を考えるようにと指導されたお話。狐の人形が、犬ではなく狐に見えるためにはどうするかのお話。(基本は、常に背骨があり、頭も尻尾も下げて、機敏に動く)。女形の頭に付けられている、袖をかみ締めてよよと泣き崩れる時に使う、口針の話。客席からは見えませんが、『主遣い』は“舞台下駄”という、とても高い下駄を履いていて、この下駄には底に草鞋が付けられているので、「下駄が草鞋を履いている」。最近では藁の質が落ちて、すぐに傷んでしまう。人形の胴の肩の部分にはヘチマが使われている、というお話などなど、とても書ききれないほどの盛りだくさんな内容。
最後に、実際に文楽の人形を遣ってみるという体験コーナーもございまして、昨日まで国立劇場の舞台に出ておりました、『絵本太功記』の光秀を三人で動かしてみることに。二人希望者が出たところで間があきましたので、思い切って「はいっ!」と元気に手を挙げて私も参加。身長などから、『足遣い』を担当。ということで、私は光秀の“足”です。両手で右足左足それぞれの足金を持ち、中腰の姿勢で、足を支えたり、動かしたりするのは思っておりました通りのたいへんな重労働。勘十郎さんに「では、足遣い、座ってみてください」と言われ、舞台上でしゃがみこみますと、「座ってみてほしいのは人形の方です」。わはは。「では歩いてみてください」と言われたものの、足をじたばたさせるのがやっと。ほんの数分のことでしたがそれでも、後、手の筋肉が重く。
ということで、今回の文楽講座、たいへん楽しくお勉強になりました。