Seiffen



木の玩具に興味を持ち、納得のいく品をようやく見つけて、ドイツ製の煙出し人形を買い求めましたのが、今から20年ほど前のこと。当時はもちろん、ザイフェンという地名さえ知らず。まさか、その人形が作られた場所を実際に訪れる機会を持てるとは、思っておりませんでした。
ザイフェン。人口三千人の小さな村。その内二千人がおもちゃ作りに従事しているという、まさにおもちゃの村。
 
今回は、ザイフェンとたいへん係わりの深いid:aquioさんがご一緒だったということもあり、普段はなかなか見せていただくことのできない、ヴェルナーさん一家の工房にご案内いただくことが。
まずは、次男のヴォルフガングさんの工房。ろくろの技術を使い、丁寧に作られた玩具はどれも可愛らしく、見事。お土産に買い求めてまいりました作品のご紹介は、また改めまして。右は、工房の隣家に立てられておりました標識。「猫注意」でしょうか?
 
続いて、長男のクリスチアンさんの工房。丸太をドーナツ型に切り抜き、カットをすると断面が動物の形になっているという、ザイフェンでも数人しかいないという、驚きの職人技をお持ちの方。「ライフェンドレーン」という、その独自の技術により、木製玩具の大量生産に成功したとのこと。カットした動物は、お鍋で茹でて柔らかくし、面取りをし、耳など細かな部位を付け加え、彩色をして完成。
画像は、その動物ではないのですが、クリスチアンさんの工房で販売されておりました、ろくろの技術で作られる木々。こちらも、ザイフェンならではの職人技によるもの。見事です。
 
メインの通りの両側には、ずらり並ぶおもちゃ屋さん。美しく飾られたショウウインドウを見て歩くだけでも、もううっとり。ただ、滞在中、多くの方に言われましたのが、「雪が降っていなくてとても残念。ザイフェンの雪景色は最高なんですよ」、という言葉。右の写真は博物館に展示されておりました、ザイフェンの雪景色。
 
ヴェルナーさん一家は、ザイフェンで活躍し、優れた技を持つ職人一家。翌朝は、三兄弟の父親で、村の名士でもある、ヴァルターさんの工房を訪問。三男のジークフリートさんと共に、格調高いミニチュア人形を作っていらっしゃいます。ミーハーな私は、お父様に握手をしていただき、「嗚呼、これが職人の手なのね」、と大感激。ザイフェンの歴史や、ドレスデンの城壁に描かれた「君主たちの行列」を再現したミニチュアはまさに圧巻。
右の写真は、工房のお庭で飼われておりました、素晴らしく可愛らしい、うさぎ。
 
こちらはクリスマスピラミッドや、シュビップボーゲンなどのおもちゃにも登場いたします、Seiffener Kirche・ザイフェン教会。
なかなか中には入れないのだそうですが、散策中に運良く、教会の説明とミサに参加することが。ところがこの時、通訳のGさんはaquioさんと大切なお仕事中。Oさん、Fさん、私の3人は、まず牧師さんのオルガン演奏、ヘンデルのオンブラ・マイ・フを聴きつつ着席し、その後、牧師さんの視線だけを頼りに、教会の歴史や建物についての説明を深く頷きながら聞くふりをし、(Fさんは年号は聞き取れたが、その年に何が起きたのかはまったくわからなかったとのこと。)、讃美歌111番『神の御子は今宵しも』の合唱に小さな声で日本語で参加し、せめてものお礼に絵葉書(写真、右)を買って帰りましょうと選んでいるうちに、続くミサが始まってしまい帰りそびれ、ずいぶん長い時間を、この美しい空間で過ごしたのでした。
 
ザイフェンは作られているおもちゃだけではなく、街並みもとても可愛らしくて、村全体がお伽噺の世界のよう。お店の看板や街灯もご覧の通り。今回、私達のツアーはゆっくりとザイフェンに二泊もすることができましたので、朝夕の静かな街並みを堪能。
ただ、日中はクリスマス時期ということもあってか、バスで乗りつけ、お買い物ツアーでおもちゃをどっさり買って帰る観光客で大混雑。おもちゃの価格もここ数年、どんどん上がり、中にはあまり質のよくない品を扱う店も増えてきているとのお話も。ドイツ国内だけではなく世界中にその名が知られ始め、村が大きく変わりつつある時期なのでしょう。でもどうか、観光地化してしまいお商売に走ることなく、丁寧に高品質のおもちゃ作りを続けていっていただきたいです。
 
村のおもちゃ作り。最初は炭鉱夫の家族が生活の糧の足しにするため副職として始めたものとのこと。ザイフェンで作られているおもちゃは、子供の、というよりは、くるみ割り人形や、煙出し人形、オルゴールや、クリスマスピラミッドなど、繊細で完成度の高い、大人のためのおもちゃ。
左は、ろくろ細工の、「確かに絶品ですね」と答えたい花々。右は、ヴェント&キューンのお店に展示されておりました、カタログ代わりに持ち歩いたという、サンプルがずらっと収められた鞄。世界中に多くのコレクターを持つという、略してヴェンキュンのショップは、ザイフェンの中でも他のお店とはずいぶん雰囲気の違う、まるでブランドショップのような豪華なお店構えでした。
 
ザイフェンおもちゃ博物館・Spielzeugmuseumの吹き抜けに飾られたピラミッドと、右はただただその高い技術に驚かされる、木製のシャンデリア。
こちらの博物館では貴重な数千点のおもちゃが展示、収蔵されているとのこと。そして、世界でも最高水準だと思われるおもちゃ作りの村の、その中でも選りすぐりの品々が並ぶ博物館での特別展示がaquioさんの作品、日本人作家のものであるということ。それがどれほど凄いことであり、意義のあることなのか。
 
博物館に大切に展示された、たくさんのaquioさんの作品を拝見しながら、私はただツアーに参加させていただいただけなのですが、なんですか同じ日本人として誇りに感じ、嬉しくなってしまいました。
右は、どの家もそれぞれが趣向を凝らし、趣味よく飾り付けをしておりました窓辺。美しい村、ザイフェン。また訪れる機会がありますように。