奈良                   



奈良の大仏様はその昔、頭が落ちてしまったことがあるのだそうです。一番最初に作られました頃は、鋳物の技術もまだまだ。完成した大仏様の頭がだんだん前に傾いてきて、危ないなぁ、と思っていたら、ある日地震が来て案の定ごろんと転げ落ちてしまったのだとか。すぐに修復されたそうですが。
                     
今、ちょうど奈良国立博物館では正倉院展が開催中でたいへんな賑わい。この正倉院。「中に宝物が」、と皆有難がって見にまいりますが、実は現在ではいつでも中身はからっぽとのこと。いくら校倉(あぜくら)造りとはいえ、やはり鉄筋コンクリート、空調完備の倉庫には敵わないそうな。しかも、これまで言われてまいりましたように、校倉造りが優れていて中の宝物が何百年もよい状態で保存されたわけではなく、高床式で、立派な櫃に宝物が納められていたからこそなのではないか、という説がこのところ有力なのだそうです。危うし、校倉造りの立場。

唐招提寺。今は大改修工事中で、仏像は全国各地に出稼ぎの旅に出ているそうな。高値で貸し出され、頑張って改修費用を稼いでいらっしゃる、とのこと。こちらの唐招提寺。質素堅実、華美を嫌った、見た目も渋いお寺として有名ですが、改修にあたり、塗料の調査をした結果、実は昔は絢爛豪華な装飾を施した、派手なお寺だった可能性が高くなってきたとのこと。さて、改修後の姿は如何に。

仏舎利(ぶっしゃり)、とはお釈迦様の骨、遺骨。これが奈良にもあちこちに。世界中のお寺にある仏舎利を合わせると、実は20トン近くにもなるのだとか。そんなにあるはずが…ということで、奈良にある仏舎利も、そのほとんどが、ガラス玉、宝石なのだそうです。ガラスとは申しましても、昔は宝石を掘り出すよりも、ガラスを作るほうが難しかったので、宝石よりもガラスの方が珍重されていたとのこと。

鑑真が日本へ渡る折にも船が難破し、せっかく携えてきた仏舎利が海へ沈んでしまったが、金の亀が仏舎利を背に乗せて届けにきた、という話もありますが、ま、伝説ということで、うわっはっは。…と、このようにたくさんの興味深いお話をしてくださいましたのは、奈良の観光ボランティアのおじ様。
                           
今回の奈良の旅は、近鉄奈良駅にございます、「奈良館」から始まりました。奈良の歴史、仏教建造物の構造、伝統技術、仏像、などを写真や模型などで紹介する施設。ただ見て歩くだけでは、あまり面白いとはいえない(sorry!)のですが、こちらでボランティアの方から奈良についての解説をしていただける、という情報を仕入れておりましたのでお願いをしてみたのです。
                             
「お時間はどのぐらいおありですか?」と訊かれましたので、「特に何も決めておりませんので、時間はたっぷりあります」と、案内開始。これがもう、時が経つのを忘れるほど、素晴らしく面白くて。最後に「ありがとうございました」と奈良館を出ましてから時計を見てびっくり。なんと1時間40分。付きっきりで、歴史、建造物などについての真面目なお話から、上記のようなくだけたお話まで、語ってくださったのです。おかげさまで、すっかり奈良薀蓄自慢に。奈良ボランティアガイド、お薦めです。

こちらは母に話しましたら、「よくあんな道を一人で歩いてきたわね」と呆れられました、春日大社の『下の禰宣道(しものねぎみち)』、通称『ささやきの小径』。(なんでも、この道で別れ話を持ち出せば上手に別れられる、と言われているのだそうでしてよ。お困りの方はぜひ。)鬱蒼とした森の中を抜ける細い道。途中、絵を描いている男性を一人見かけたのみ。怖いといえば怖い道。

でも、不思議と、奈良を歩いておりまして、嫌な感じともうしましょうか、拒絶されている感じはまったくしなかったのです。ライトアップ見物のために、まったく人気のない夜道を歩いている時も少しも怖くなくて。思い込みかもしれませんが…まるで街が、「おかえり」と暖かく迎えてくれているように。