若竹



今回の旅館選びの条件は、当日予約可であること、チェーンを使わずに行ける雪の降らない場所にあること。直前予約を得意とするという“トクー!トラベル”というサイトで見つけましたのが、伊豆半島、伊東にございます『若竹』。スタインウェイが置いてある和風旅館、というのも一度訪れてみたいと思った大きなポイントでした。
さて、夜の海岸沿いをひた走り到着いたしました『若竹』。おそらく昔は立派な旅館だったのでしょうが、今は立て付けもすっかり傷んでしまい、押し入れを開けようといたしましたら、襖が二枚とも外れてしまい、襖を抱えて大笑いをしたり、すきま風が吹き込むのでエアコンをマックスにしてもお部屋が寒く、お布団の中で過ごすしかなかったり、と、まさに「うらぶれた」という言葉がぴったりの旅館。
それでも、この旅館の印象が悪くないのは、3年前にご主人を亡くされてからは全ての仕事を一人でこなしているという女将が、おもてなしの心をしっかりと持っていらっしゃることと、家庭的な食事が美味しかったこと、源泉掛け流しの温泉が小さいながらもとても良いお湯だったこと、そして素敵なホール。
ご主人が大変なクラシック音楽好きで、生前は東京へも良くコンサートを聴きに出かけていらっしゃったとか。でも伊東に帰るのに終電に間に合わない事も間々あり、それならば旅館にホールを作ってしまいゆっくりと音楽を楽しもう、という話になったのだそうです。お嬢様がピアニスト、そのご主人がベルリンフィルコントラバス奏者で共にベルリン在住。スタインウェイはお嬢様がドイツで選定をし、ワシントン条約が制定される前、ぎりぎり象牙の鍵盤が許された時期のピアノだとか。(客室は寒かったですが)ホールは温度湿度共しっかり管理をしてあるので状態は良く、元宴会場なので天井が高く響きもとても良いと好評だそうです。他にディアパソンのピアノも一台。過去の旅館主催コンサートの出演者の中にはヴァイオリンの天満敦子さん、ギターの庄村清志さん、そして娘の先生の名前までございましてびっくり。
せっかくこのような素晴らしいホールとピアノがあるのですもの。なんとか宿泊客が増え、また綺麗できちんと整えられた旅館になっていただきたいです。音楽関係の合宿などに如何でしょうか。