王様の耳はロバの耳



その時、事務所には私と社長だけ。あるピアニストと電話中でした社長が突然、送話口を手で塞ぎ「あ…貴方ちょっとコーヒー買ってきてくれる?」と。「はい、あの、コーヒーでしたらございますが」と答えると「あ、ジュース買ってきて」「はい、わかりました。何ジュースを?」「オレンジ。あ…なんでもいいから」と。「!!!」ぼっとしております私はやっとここで「席を外して欲しい」と言われている事に気がついたのです。

頷きながら急ぎ事務所を出まして、オフィスの入っているビルの一階にあるコンビニエンスストアでジュースを買い、ゆっくり歩いて向かいの建物に入っている輸入雑貨の店を覗き、もうそろそろお話は済んだかしら…と事務所に戻りますと電話はすでに切られておりました。

暫くいたしまして社長が「とてもややこしくて、面倒な話で、聞いてしまうとどうしても人に話したくなってしまうような話なのよ。貴方は聞かない方がいいと思って。僕は拷問するぞと言われるか、600万円以上積むと言われない限り絶対にしゃべらないけど」と。はい、そういったお話は出来ましたら私の耳には入れないで下さると有り難いです。口は堅い方ですが、どうしても我慢できずに遠くへ出かけて穴を掘り、叫んで来なくてはいけなくなるようなお話ですと困りますから。



マトリョーシカ