譲り合い



どなたも経験がおありかと思いますが、電車の中での席の譲り合いというのは、難しいものがございます。いかにもお年を召していて、立っているのも辛そうな方や、臨月近い妊婦さん、赤ちゃんを抱っこしたお母さん、などでしたら迷わず声をかけられるのですが、判断が微妙な場合も多くて。

先日も、JRの車内で座っておりましたら、空いていた隣の席にちょっと足もとの怪しいおじいさまが座られ、その前に奥様らしき女性が立たれたんですね。奥様はふっくらとされているせいか、皺もほとんどなくて若々しくていらっしゃったものですから、ちょっと迷ったのですが立って席を譲る事はしなかったんです。

そういたしましたら、いくつめかの駅で奥様が「おとうさん、交替して。順番に座りましょ」とおっしゃり、おじいさまが立たれて、奥様が座られたんですよ。で、慌てて「あ、どうぞ」と席を立つと、おじい様もその奥様も「大丈夫ですから、いいです、いいです」と。そういたしましたら、驚いたことに、ちょうどその奥様を挟んで反対隣に座っていた40代半ばぐらいの女性が、席を立って「どうぞ」とおっしゃったんですよ。え…どうして?おじい様は、やはり遠慮をされて「大丈夫です、大丈夫です」とおっしゃり、奥様は両脇の席が空いた状態で「本当に大丈夫なんですよ」と。

で、膠着状態に陥ってしまったものですから、私が席を立たれた女性に「どうぞ、お座りになって下さい」と申し上げますと「次で降りますから」とおっしゃってドアの方へ移動してしまわれたのです。という事で、「では」とおじい様はその女性の席へ。「では」と私はもとの席へ、また座りまして一件落着、とあいなりました。