駆け込み乗車



もうずいぶん昔の話になりますが、電車にぎりぎりのタイミングで飛び乗った時に、着ていたコートの袖をドアに挟んでしまった事があります。「あ、いけない」と引っぱってみたのですがびくともいたしません。この時着ていたコート、袖にバックルが付いているタイプだったのですが、そのバックル部分がドアの外に出てしまっていたんです。

周りの方達が気付いて、なんとかバックルを引き込もうと手伝ってくださったのですが、ちょうどT字状になってしまいどうにもなりません。ドアを開けようとして下さった男性もいらっしゃったのですが、そう簡単に開くものでもありません。しかも、乗ったのが始発駅だったため、もう挟まった側のドアは終点まで開かない、と。途中駅で降りていかれる方達が、口々に「駅員さんに伝えてあげるからね」と親切におっしゃって下さり、連絡が伝わったのかいくつかの駅で駅員さんが「あ、これね」と乗り込んで来てはくださるのですが「ここでドアを開ける訳にはいかないのよ。でもなんとかしてあげるからね」と降りていってしまいます。

降りる予定の駅を過ぎ、都心部も過ぎてだんだん乗客もまばらになっても私は一人、ドアに袖を挟んだまま立ちつくしておりました。乗り込んできた人が不思議そうに見て、袖に視線を移し「ありゃ」とかおっしゃるんですが、どうしようもありません。でも、やっとここで気付いたんです。「そうだわ、バックルをコートから外せばいいんじゃないの」という事でなんとか座る事はでき、諦め顔でドアにぶらんとぶら下がったバックルを見つめておりますと、幾つめかの駅でまたまた駅員さんが。「はいはい、これね」と、もうその頃には車内もがらがらだったせいか、非常コックを使って一瞬ドアを開け、バックルを救出してくださいました。丁寧にお礼を申し上げて下車。やっと、やっと目的地に向かうことができたのでした。

それ以来、駆け込み乗車には非常に慎重です。