ちひさな秘密のお茶席



まだ少女であった頃。引き出しに大切にしまい、時折取りだし、手にしてはうっとりと見つめた小さな宝物。リボン、レース、輝く石、貝殻、カードやブローチなどの異国のお土産。そのときめきが蘇る、お茶会でございました。
誰にも教えたくない、自分だけの秘密にしておきたい。参加されたご婦人方が、皆さまそうおっしゃっておりましたこともあり、少しだけご紹介を。
銀座の裏路地に面しました、とある小部屋。この集いのためだけに設えられました、美しい空間。



招かれましたのは七名の婦人。手袋、ミントの葉、そして清々しい二十年代ロンドンの六月をテーマとした、朗読と洋菓子を楽しむお茶席です。この日、朗読をいたしましたのは、「手袋を買ってくるわ」という一節からはじまるヴァージニア・ウルフの短編、《ボンド街のダロウェイ夫人》。

子供の頃、母の箪笥の引き出しからこっそり取りだし、小さな手を入れては貴婦人になったかのようで一人悦に入っておりましたレースの手袋。蜘蛛の糸のように細い絹糸で編まれた手袋が、なんとまだ実家には残っておりまして。指を通すのも難義なほど繊細な、その手袋を着けまして参加をすることに。


まず、食前のドリンク、『子供時代を呼び戻すミントの葉たっぷりのノンアルコールカクテル “Drink Me” 自家製グレープフルーツシロップの炭酸水』、そしてフォートナム&メイソンの紅茶と共に供されましたのが、空色のCasketに詰められました洋菓子。
蓋を開け、薔薇のプリントの薄紙を取りますとそこには、『ハチャード書店の張出し窓の前でミリィに買ってあげようと思った《クランフォード》のビスケット』、『六月の英国に咲き乱れる エルダーフラワーコーディアルのグミキャンディ ラズベリー&ローズ風味添え』…。
どれも食べてしまうのが本当に惜しまれるほど、手の込んだ、そしてたいそう美味なる洋菓子。

会話とお茶、お菓子をゆったりと楽しみました後、いよいよ朗読会。人前で朗読をするなど、高校生以来ではないでしょうか。少々どきどきの朗読も恙無く終えまして、また楽しい語らいが再開。テーブルには、ミントとレモンを添えた紅茶とともに、『クラリッサのように背筋がぴんと伸びそうな 黒こしょうとチーズのビスケット』、『セント・ジェイムズ公園の木々の葉のような うすみどりいろの冷製スープ』、などなど。そして、『沈黙という花言葉を持つハーブ水』。
楽しい時間はあっという間に過ぎまして、時計を見ましたらお茶会が始まりましてからすでに四時間半ほどが経過。


お土産に、と手渡されましたのは、リボンの持ち手も美しいブルーのバッグ。中にはこの日の想い出がいっぱいに詰められたCasket。

ご挨拶のお手紙、お招きの証である藤色の絹のリボン、白い手袋のビスケット、限定7部の蔵書票、等など。全てがこの日招かれたたった七名の為に用意されたもの。なんという贅沢。

主催のNさんの美意識、博学多識、そして心遣いが隅々にまで満ちたお茶席。窓際や、飾り棚には、ヴァージニア・ウルフの肖像、当時の書籍、コレクションされているという、アンティークの白い鞣革の手袋や、その手袋を華奢な手にぴちっと装着するために使われる、珍しいお道具類なども。
機会がございましたら、また是非お招きいただきたい。でも、限られた人数。他にご希望の方がいらっしゃるのなら、お譲りするのがレディーのマナーかしら、と心がゆらゆらと揺れております。