ビショップとソーニャ



夜道を歩いておりましたら、突然植え込みから「にゃにゃー。にゃーーぁ」、と大きな猫の声。見渡す限り、他に猫の姿も人の姿もありませんでしたので、どうやら私に話しかけているよう。凍えるような寒い夜が続いておりますが、猫ちゃん達はそろそろ恋の季節。「ねえねえ、この辺りでかっこいい猫見かけなかったー?」とでも話しかけてきたのではないかしらん。
実は、二羽の鶏を飼うよりもずっと以前、二匹の猫を飼っていたことがございます。名前はビショップとソーニャ。
ビショップはガード下に捨てられていた子猫を拾い、両親に頼み込んで飼い始めた猫。白い毛に少しだけ淡い茶のぶち。尻尾が豚のように短くくるんと丸まっておりまして、そこにふわふわの毛が生えているのでまるでうさぎの尻尾。後ろ姿が、耳は猫なのに尻尾はうさぎ、という少々変わったシルエットの猫でした。ビショップという名前は、チェスのビショップ(Bishop)司教から。遊んでおりまして興奮をすると、四本の足を揃えて、ぴょんぴょんと斜めにジャンプしながら移動する、というこれもまた少々変わった動きをするところから付けた名前です。
ソーニャは友人から譲られた、華奢で美しいシャム猫でしたが、ちょっとお馬鹿さん。白痴美、といった風情の猫でした。こちらは、ドストエフスキー、『罪と罰』の登場人物、家族の為に売春婦となった少女、ソーニャから。これは確か当時高校生で、ちょうど読んでおりました大島弓子の、『ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコリーニコフ/罪と罰より』を愛読しておりまして、その中のソーニャの無垢で儚げな姿に、イメージを重ねてのことでした。
さて、件の猫ちゃん。素敵なお相手と出会うことはできたでしょうか。