紙漉き



5月にサントリー美術館で吉岡幸雄さんに染めを学んだメンバーのお一方のご紹介で、紙漉きを体験してまいりました。教えてくださったのは、田村正師匠。田村さん、でも、田村先生、でもなく、師匠、と呼ぶのがぴったりなのです。
和紙作り、素敵な体験でした。200年以上前に行われていた紙漉きを再現。楮(こうぞ)とトロロアオイと水だけで和紙を作ります。
まず、原料となる楮。「桑、三椏(みつまた)などでもできるが、和紙作りには昔から楮が一番適しているといわれている」、とのこと。楮を蒸して、皮を剥ぐ。ここまでは先生、あ、間違えました、師匠が工房でしてきてくださいますが、ここからは全て自分達で作業を進めてまいります。
まず、水にさらしてある、楮の表皮や枯れて黒くなった部分などを金属のへらを使って取っていきます。初めは細かく粉のようにしか剥けないのですが、慣れてまいりますとぺろっと大きく剥がすように剥けるように。
次に、塵取り(ちりとり)といって、水に晒しながら色のついた部分をさらに丁寧に取り除いていきます。今回はなるべく汚れのない、無地の紙を目指すため小さな塵も取りましたが、この時に取った部分も捨てずに取っておき、色のついた和紙に使用するとのこと。“ゴミ”を取る、のではなく、“塵”を取る。ゴミは捨ててしまうものだが、塵は再利用ができる。例えば、皮を剥いてしまった楮の木の芯も、薪として枝を茹でるのに使用する。昔ながらの和紙は捨てるところは何一つないとのこと。素晴らしい。
次に、塵をきれに取り除いた楮を、餅つきに似た要領で叩いていきます。目安は繊維が毛羽立つまで。この間、師匠がトロロアオイの根を、水に入れ、とろみのある水を作ります。このとろみのある水にたっぷりたたいた楮を加え、攪拌。師匠はこの水加減を音で聴くそうな。トロロオアオイは保存が効かないため、クレゾールやホルマリンが使われることもあるそうですが、田村師匠の手法は一切薬品は使用せず。ですので作業は極力手早く。本当は、紙漉きは真冬にするものとこのこと。
さてここからが、テレビなどでよく目にする、紙漉きとなります。枠に簾を張り、まず向こうから軽くさっと汲んで紙の表面を作り水を捨て、続いて手前からざぶっと汲み取り平行に揺すります。ちゃぷちゃぷ。とても美しい水の音。暫しそのまま我慢。向こうに捨てて、また手前からざぶっ、ちゃぷちゃぷ。3回ほどこれを繰り返し、最後は向こうにざっと水を捨て、枠から簾を外し、水切りの台の上へ。間に何も挟みこむことなく重ねてしまっても、それぞれの紙がくっついてしまうことはないのです。
手元が狂ったり、心が乱れると、紙が浮いてきてしまったり、縒れてしまったり。それはそれでこの世にたった一枚の紙。次々に、「長崎の山々」、「埼玉の雲」、などタイトルが付けられていきます。
こうして、この日は三人が、一人六枚ずつの紙を漉きました。圧をかけて水を切り、一枚ずつ剥がして板に張りつけて乾燥。この状態でお預けして帰宅してしまいましたので、完成した状態はまだ見ておりません。近日中に引き取りに伺う予定。どのような紙になっておりますか、とても楽しみ。さて、完成した紙で何を作りましょう。
田村正師匠。紙漉きの弟子は子供から大人まで、なんとすでに12000人を超えたとのこと。紙漉きの技はもちろん、お話は楽しく、歌(童唄、紙漉き唄)もお上手。日本以外にも、フランス、ドイツ、ハンガリーラトビア、などでも紙漉きのワークショップを開催。色々としがらみの多い日本国内よりもヨーロッパでの評価が高く、この秋にもフランスで作品展が予定されているとのこと。ほやほやの弟子といしましても、これからもますますご活躍をお祈り申し上げます。
※この日はカメラを忘れ、画像はご一緒したUさんにいただいたもの。