「文楽・人形の世界」  1


第一回 サントリー美術館文化サロン 桐竹勘十郎文楽・人形の世界」
出演:三世 桐竹勘十郎、吉田蓑二郎、吉田蓑次、桐竹勘次郎
サントリー美術館では、6階ホールを利用して「文化サロン」を開催いたします。初回に登場いただきますのは、文楽人形遣いの旗手、三世 桐竹勘十郎さんです。世界遺産に登録された日本の伝統芸能文楽の楽しみ方をお話いただきます。人形に魂を吹き込むまでの過程や、三人遣いの技の披露など、実演をご覧いただき、魅力あふれる人形の姿、人形遣いの技をご堪能いただけます。実際に人形に触れてみる「体験・文楽」の時間も設けました。はじめて文楽に接する方も楽しめる初心者向けの講座です。

という会に参加してまいりました。会場には、昨日まで国立劇場で使われていた、というものも含めてたくさんの人形、衣装、小道具が展示。どれも興味深いこと。
まず最初に、サントリー美術館で開催中の『日本を祝う』に因み、『式三番叟』の一部を演じて開演。その後、人形遣い桐竹勘十郎さんによる、楽しいお話が続きます。
最初は一人で動かしていた人形を三人で動かすようになったのは、大阪、道頓堀の竹本座で1934年のこと。最初は今よりも小さめの人形で、人形遣い義太夫も姿が見えないよう大きな幕の影に隠れて演じていとのこと。その後、観客から「人形遣いの姿が見たい」という要望があり、透けた布の裏で演じ、動きを見せていた次期を経て、今の姿に。
頭と右手を担当する『主遣い(おもづかい)』が人形を遣う中心となり、『左遣い』は、右手で人形の左手を遣います。そして『足遣い』は、人形のかかとに付けられた“足金(あしがね)”、女の人形の場合には衣装のすその内側を指ではさみ、歩いているかのように見せます。この三人のイキがぴたりと合ったとき、布、紙、竹、木、で作られた人形が、人間以上に人間らしく見えるのです。
人形遣いは現在意外に少なく38名。まず『足遣い』、次いで『左遣い』の順に厳しい修行を積み、皆『主遣い』を目指す。足を遣えるようになるまで、通常でも10年。勘十郎さんは、『足遣い』を15年。よほど不器用なのかと思われるかもしれないが、そうではなくて、ここで他を全て学ぶ。ただ歩いているように見せるだけなら、数ヶ月でできるようになる。『足遣い』は体力勝負なので、若い時に済ませてしまった方がいい。先に演じた『三番叟』の足拍子なども、『足遣い』が、自分の足で厚みのあるヒノキ板の舞台をだんだんっ、と鳴らさなければいけない。とても痛い。まずかかとが紫色になり、足袋の文数が変わるほど腫れあがる。痛いとわかっていても踏む。勘十郎さんは、コンクリートの上で踏んで鍛えたとのこと。
文楽の人形は、普段衣装を付けたまましまわれているわけではなく、床山さんが鬘を外し、頭は頭。手足、衣装など別々に保管され、次に使われるときにまた新たに組み立てます。人形遣いは、自分が遣う人形の衣装や手足などをすべて自分で用意をする、これが『人形拵え(にんぎょうごしらえ)』。衿をつけ、襦袢を着せ、上衣装を着せ…とただ着せ付けていくのではなく、気持ちを入れ、役になりきっていく。ちなみに、立役(たちやく/男役)の髪は、チベットのヤク。女の人形の髪は、人間の毛とのこと。