天ぷら、の思い出



入院中というのは色々なことを考え、思い出すもの。今回、ベッドの中で、「てんぷらは当分食べられないのだわ…」と考えておりまして、甦ってまいりました遠い昔の記憶。
あれは大学を卒業してすぐの頃。susieちゃんの実家に遊びに行った帰りの新幹線の中で、隣に座った男性に、何かのきっかけで声をかけられました。聞けば、防衛大学校を卒業したばかりで、海上自衛隊に入ることが決まったとのこと。当時私は船乗りの妻に憧れておりまして、もう彼の話に興味津々。「よろしければまたお会いしましょう」、という話になり、その後彼が、世界一周の遠洋航海に出てしまうまで、東京や横須賀で確か3回ほど、お会いしたでしょうか。
その中の一回が、初夏の日比谷デート。待ち合わせは、帝国ホテルのロビー。現れた彼のいでたちはと申しますと、「夕方から大使館でパーティーがありまして」とのことで、なんと驚きの真っ白い海上自衛隊の制服制帽姿。防衛大学校の卒業生というのは最初から、軍隊の階級でいうと准尉になるのだそうで、それはもう、目のやり場に困るぐらいの立派な礼服姿。人目を引くことこの上なし。私もその日は普段あまり着ることのない鮮やかな緑色のワンピース姿。自分達の周りに漂う華やかさに、もう照れくさいやら、恥ずかしいやら。
「お昼でもいかがですか」、と帝国ホテルの地階にございます『天一』で時間をかけて天ぷらをいただき、その後、日比谷公園を語らいながらの散策。お相手は、まあ言うなれば軍服姿。そう、まるで三島由紀夫の小説の中に入り込んでしまったような、なんとも古風で現実離れしたようなひと時を。