茫然自失




夜になっても暖かく、終業間際に職場で日本酒をいただいてしまい、ヌーボーという気分でもなくなってしまいましたので、思いきって行ってまいりました、花園神社。いやはや…。
酉の市。熊手の美しさに見とれながらも、なかなか見世物小屋を見つけることができず、境内をぐるぐる。警備員さんやお巡りさんに道を訊ねつつ、夜店の間の路地を入ったところに、ございました、ございました、おお、これが見世物小屋靖国通り沿いの脇道から入ってしまいましたので探してしまいましたが、正面から入れば、大鳥居を入ってすぐ左手のあたり。
小屋の外では、きちんとお約束の口上が。「お代は見てからで結構。さあさあ入って入って、間もなく始まります。今なら全ての演目、見ることができますよ、はい、どうぞどうぞ。」ジリリリリリ…とけたたましく鳴るベルに背中を押されるようにして、小屋の中へ。この赤い幕をくぐればそこは異界。

小屋に入りますと、ベニヤの床、赤の布やら赤いレースやらで装飾された舞台が。まずは、新人の小雪太夫さんが登場。昨年からこの仕事を始めたばかり、一昨年までは観客席にいたという小雪ちゃん。赤い襦袢に、白い肌。長い黒髪、ぱっちりとした黒い瞳に愛らしい笑顔。可愛らしいです。プリンセス・テンコーのファンだという、北朝鮮金正日総書記に狙われてしまいそうなほど。「可愛い!」「美人!」との声もかかります。そんな彼女が、手にした紙包みから取り出しましたのは、蛇の首と体。首はもう先ほど食いちぎってしまったとのこと。胴体をべろりと舌で舐めましてから、口に含み、バキバキと骨を噛み砕く音を響かせながら5センチほど口に入れましたところで徐にブチッと噛み千切り、むしゃむしゃ、ごっくん。口を大きく開け、舌を出して見せます。ぐわああ。拍手拍手。小雪ちゃん、拍手に笑顔で答えながらも、突然蛇を客席に投げ込みまして、客席キャー、ウギャーと大パニック。これはゴム製の玩具の蛇、でご愛嬌。
続きまして、箸休めのように登場いたしましたのが、双頭の子牛のミイラ。千葉県の三井さんという農家で生まれた子牛が、全国の見世物小屋を渡り歩き、他の小屋は次々と閉めてしまったので、今のこの小屋に辿り着いたとのこと。遠目には流木のようにしか見えませんが、近くでじっくり見ますと確かに、頭は二つ、目は四つ、体は一つ。ほう。
さて、ここで真打、お峰太夫、お峰さんが登場。と申しましても舞台の隅になのですが。始まりました出し物は、「人間火炎放射器」。観客は舞台に向かって右手にぞろぞろと全員避難させられます。白装束のお峰さん、蝋燭の大きな束に火をつけまして、溶けた蝋燭を口の中にたらたらと流し込みます。とても熱そう。休み休み、三回ほどに分けてたっぷりと流し込みましたところで照明が落とされ、燭台に一本だけ灯された蝋燭を手に蝋を噴出しますと、ボワアッ!!っという音と共に大きく飛び出す炎。ぐおお、大歓声と拍手拍手。
ここで再び、初々しい小雪ちゃんが舞台中央に登場。手にしておりますのは玉鎖と水の入ったバケツ。可愛い顔をして何をするかと思いましたら、突然鼻から鎖をするすると入れ始め、俯き、顔を上げると同時に口をばっと開きますと口から鎖。ひいい。鼻と口に通った鎖をするする、するする、と口から出したり鼻から出したり、動かして見せます。続いて小雪ちゃん。鼻と口に通したままの玉鎖をバケツの持ち手に絡ませますと、重いバケツをぐぐっと持ち上げるのです。うわあ、何もそんなことをしなくても。拍手、拍手。
そして、次なりますは箱のマジック。舞台中央に大きな青い箱。箱の中が空なのを確認、したはずなのに何やらひも状のものが取り出され、すわっ、また蛇か?と客席きゃーっとどよめくもこれはリボン。続いて、もう一度空なのを確認いたしました後、中から出てまいりましたのは、無数の蛇を手にいたしましたお峰さん。何ですか水分を滴らせる蛇が頭の上、10センチほどのところまで運ばれてまいりまして、きゃああ。
さて、最後になりました、お待ちかね。小屋一番の呼び物、大蛇の登場です。寒い時期ということもあってか、ベニヤの舞台の上に敷かれましたのはなんと大きなホットカーペット。出てまいりましたニシキヘビ、大きいです。顔には布が被せられておりますが、小さな顔に似合わず、ウサギでも鶏でも、生きたまま丸呑み、死んだものは一切食べないとのこと。この大蛇、最前列におりますと、最後になでなでさせていただけます。鱗が光り輝いておりましてとても綺麗。鱗に沿って撫でますと、つるつると滑らかな手触りです。最後に舞台に向かって右端におりますと、希望者に大蛇の抜け殻がお土産に配られ、出口でおばちゃまに800円お支払いいたしまして、外へ。もっと見ていただければ、そのまま小屋を出ずに次の回を見続けることもできます。
賑わう境内を出ましてからも、あまりの衝撃に、暫くはお口あんぐり状態。お峰太夫さんは高齢で、もういつ引退してもおかしくない状態とのこと。小雪ちゃんの芸もなかなかですが、やはりお峰さんの味わい深さにはまだまだ敵いません。ご興味がおありでしたら、三の酉、27日、28日も興行があるそうですので、ぜひ一度。