無言のレッスン



先日、大好きなピアニストFさんから伺った話。
『昔の先生というのは、たいへん威厳があって怖かった。先生のお宅へレッスンに伺い、まず弾く。弾き終えても、先生は何もおっしゃらない。1分待っても、3分待っても、5分待っても、10分待っても、何もおっしゃらない。じーっと何かを考えていらっしゃる。せめて咳払いだけでも、と思っても、それすらない。何故先生は何もおっしゃらないのだろう。何を考えていらっしゃるのだろう。いったい何がいけなかったんだろう、と必死で考える。沈黙に耐えながら、考えて考えて考えると、(あっ、そうか!先生のおっしゃりたいことはこれなのか!)と閃く瞬間が訪れる。そういうレッスンだった。
試験の前なども、先生が静かに、「試験はいつ?そう、来週。……もうちょっとなんとかならないかしらね」、とおっしゃる。「はいっ!わかりました。なんとかします」、と答えて、なんとかする。だから、自分で考えることのできる生徒は伸びるけれども、何も考えられない生徒はぜんぜんだめ。今の先生は、色々注意をし過ぎるし、威厳はまったくないし、これではまったくだめよね。』
ピアノに限らず、音楽に限らず、同じことが言えるのかもしれない、と。