金の魚



知人よりいただいた栞には、金の魚が付いておりまして。昔『金の魚』という物語を読んだ記憶があるのですが、どのようなお話だったかしらと。そうでした…。

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昔、蒼い海のそばの小さな小屋で、おじいさんとおばあさんが漁をしながら静かに暮らしておりました。
ある日のことです。おじいさんが海に網を投げると、一度目は泥ばかり。二度目は藻屑ばかり。がっかりしてもう一度投げると、三度目にやっと一匹の魚がかかりました。それはなんと、金色の魚だったのです。
金色の魚はおじいさんに向かってこう言いました。「おじいさん、おじいさん。どうか私を海へ帰してください。もしも助けてくださるならば、そのお礼になんでもおじいさんの望みを叶えてあげましょう」。おじいさんは、「これは驚いた。何十年も漁をしてきたがものを言う魚に出合ったのは初めてじゃ。そうかそうか。お礼などはいらないよ。海へ帰ってのびのび暮らすがよい」、と魚を海に放してやりました。
家に帰り、おばあさんにこのことを話すと、「なんだって、ただ逃がしてやっただと?ばかだね、あんたは。せめて、壊れちまって困っている手桶の一つぐらいもらっておけばよかったのに」とたいそう不機嫌になってしまいました。
おじいさんは家に居づらくなり、しかたなく海へ行き、「おおい、金の魚さんやーい」と呼んでみました。すると間もなく、金の魚が現れて「おじいさん、助けていただいてありがとうございました。何かごようですか?」と。おじさんは「許しておくれ、金の魚よ。うちのばあさまときたら、口うるさくて、壊れた手桶を新しくしてもらってこい、と言うのじゃよ」。「心配はいりませんよ、おじいさん。家に帰ってみてください。もう新しい手桶が届いているはずですから」。
その言葉に驚いたおじさんが家にもどると、真新しい手桶を手にしたおばあさんが、「あきれたもんだね、このあほうが。手桶だけを頼んで帰ってきたのかい。欲がないにもほどがある。さあさあ、もう一度金の魚のところへ行って、家が一軒欲しいって頼んでおいで」と。おじいさんはとぼとぼと海へ向かって…。
おばあさんの欲は留まるところを知らず、家の次は、高い身分の奥方、絢爛豪華な城に住む女王の座、そして遂には神になりたい、と。欲張りばあさま、ふと気がつけば、壊れた桶を手に、海辺の小屋の前に立っていた、というお話。

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プーシキンが民話として紹介をして広く知られるようになった話とのことですが、各地に同じような物語が長く語り継がれて残っているようです。
ちなみに、ドビュッシーの『映像』第二集の中に「金の魚」という美しい曲があるのですが、こちらは、この民話から題材を取ったものではなく、彼が持っていた日本の蒔絵に描かれた鯉(金の魚)からインスピレーションを受けたものだと。