ヴェルクマイスター



ピアノという楽器。演奏会などで音を整えるのは演奏家本人ではなく調律師さんのお仕事。現代では、普通に調律をお願いいたしますとほぼ100%、1オクターブ、12音を等分する平均律に調律されます。
ところが突然担当ピアニストが、来春のリサイタルでは「フランスの近現代ものを、ヴェルクマイスターという調律で弾いてみようと思う」と言い出したのです。「はて、ヴェルクマイスターとはどのような?」と少々調べてみましたところ、数ある古典調律の中の1つとのこと。近現代の作曲家の曲を、古典調律で?とますます「?」となっておりましたところ、日本ベーゼンドルファーの協力で、実際にヴェルクマイスター音律に調律したピアノを試し弾きすることができることに。これは是非聴いておかねば、と行ってまいりました。それぞれの音の幅を微妙に変える、慣れないと調律師さんにとってもやっかいな調律であるにもかかわらず、ちょっと聴いても平均率との違いはまずわからない、との話も。ホールのピアノをまた平均律に戻さなくてはいけない、という時間と経費の問題も。果たしてそれだけの手間をかける価値のあることなのか。半信半疑でベーゼンドルファーのスタジオへ。
さて、用意されたピアノでピアニストがラヴェルを実際に弾き始めましたところ、うわ、ぜんぜん聴きなれた響きと違うではありませんか。微妙な音のずれもまったく不快ではなく、逆に音のゆらぎに身をゆだねる心地よさを実感。天鵞絨の耳触り。私の中にある印象としての、古いヨーロッパの音。煌く華やかさはないものの、和声の響きが際立ち、深く柔らかい響きに包まれなんとも心地よいこと。しかも、フランス近代の音楽に驚くほどよく合うのです。これには驚いてしまいました。
という事で、本日はピアニストが何をしたいのかを理解、納得できた、有意義な一日でございました。
※画像はヴェルクマイスターではなく、ジルバーマンのサークル図。