岩、動く。



招待状をいただき、岩城宏之さん指揮のコンサートを聴きにサントリーホールへ。プログラムは前半が東京混声合唱団による、武満徹クセナキス三枝成彰中田喜直作品。後半は、新日本フィルハーモニー交響楽団による、一柳慧、権代敦彦作品、そしてベートーヴェン交響曲第5番「運命」、という盛りだくさんな内容。開演が7時半でしたので、アンコールが終わり会場を出ましたのは10時10分。今後は日本でも開演、このように終演時間の遅いコンサートが増えるのではないでしょうか。今回は日曜日の開演でしたが、平日ですと仕事を終えて7時開演のコンサートというのは慌しいですものね。

さて、岩城さんの指揮。簡単にこのような言葉を使ってはいけないのでしょうが、まさに壮絶。2001年に喉頭腫瘍、この夏肺がんの手術を受けられたばかり。曲間でのお話で声が掠れるのを「声変わりです」と観客を笑わせてはいたものの、体調は万全ではないようにお見受けいたしました。この10月、岩城さんは突然以前所属していた大手の音楽事務所をやめ、作曲家の三枝成彰さんの事務所に移られたと聞いて驚いたのですが、その経緯を三枝さんが曲間のご挨拶でお話をされまして…

三枝が引き抜いたのではないか、という噂もあるようですが、まったくそのような事はありません。今年4月のある朝のこと、突然岩城さんから、「お前に会いたい」と電話がかかってきまして。今神戸にいるのですが、と伝えるとじゃあ東京にいるから真ん中の名古屋で会おう、ということに。で、確か午後1時ぐらいに名古屋で待ち合わせてお会いしましたら「お前の事務所に移るから」と。仰天して、いや…うちの事務所も株式会社ですので役員会に…などと話しておりましたら「今までに一度もダメだって言ったことないじゃないか。今日の午後4時までに返事をくれ」と。

どうやらこれは、一昨年の大晦日に3人の指揮者(大友直人金聖響岩城宏之)でベートーヴェン交響曲全曲演奏会を三枝さんが企画した折、岩城さんは「他の指揮者が振っている間、待っている時間が辛いので次回は一人で全曲指揮をしたい」と言ってみたところ、三枝さんがあっさりOKを出したことに、言い出した本人がびっくり。「三枝はなんでもやりたい事をやらせてくれる!」と移籍を決意されたようです。この演奏会、今年も開催予定とのこと。普通考えましたら、大晦日に、その年肺がん手術を受けたばかりの体でベートーヴェン交響曲1番から9番まで、一人で振ろうとは考えませんでしょう。ちなみにスケジュールは2005年12月31日(土)15:30開演、24:40終演予定。
アンコールのベートーヴェントルコ行進曲で、楽しげにトライアングルを叩く背中を拝見しながら、岩城さんの指揮をすることへの凄まじいまでの執念、音楽家としての性、に触れたように感じた一夜でした。