八村先生



今月、事務所でマネジメントをするコンサートのプログラムに八村義夫さんという作曲家の作品が一曲取り上げられております。八村先生、懐かしい。八村先生には、音楽理論の講義を受けたことがございまして。1985年に46歳で亡くなられてしまいましたので、おそらく私が授業を受けましたのは亡くなられる少し前。先生の姿を思い浮かべますと、あの頃40代半ばであったということが驚き。当時の私の目にはまるで老人のように。お体の調子がすでに悪かったのかもしれません。休講がとても多く、講義があっても、もごもごと私にはちょっと理解できないような内容のお話をいつもなさっていたような。
一度だけ、授業中に八村先生が自作の曲を演奏して下さったことがございました。今考えますととても贅沢な時間。八村先生は、46年間の人生で十数曲しか作品を残さず、ピアノ曲に至ってはたったの二曲のみだとか。そのうちの一曲でしたかどうでしたか、残念ながら曲名は思い出せないのですが、その演奏は耳に目に、強く焼きついております。「鬼気迫る」、とう言葉はまさにこういった状況の時に使う言葉だわ、と考えながら聴きました、凄まじい演奏。不協和音、不協和音、不協和音、時折の美しい響き、そして先生の腕の骨が折れるのでは、と心配するほどの鍵盤の強打。恐ろしいほどの集中力。この時のことを思い出すたびに、教室の窓から見えた、あの日の空の色が甦ってくるのです。



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