恐怖の譜めくり



先日社長が「あなた、譜めくりしない?」と。「譜めくりですかぁ。もう十年以上していないので無理かもしれません」と答えると「いや、舞台に立てば大丈夫。身体が覚えているはずだ!」などと、まるで山岸凉子さんのアラベスクのような事を申します。「ええと…譜めくりってどちらの手でするのでしたっけ?左手ですよねぇ」などと私が言い出すに至ってさすがに不安になったようで「では、一度リハーサルに参加していらっしゃい」と。

で、昨日行ってまいりました、ピアノトリオのリハーサル。プログラムはシューマンブラームス。そうでした、思い出しました、譜めくり。大変なのですよ、もの凄く。目立たぬようにピアニストの左手後方に座り、譜面をめくるのが仕事なのですが、これが簡単なようでたいへんな神経を使う作業なのです。まず、位置が遠いので楽譜の細かいところまでは見えません。それでもなんとかポイントを決めて目で追い、右のページ最後の一段あたりでそろそろと立ち上がり楽譜の右上を軽く折り下げ、次のページの頭が見えるようにしつつ、最後の一小節に入ったあたりでぱっとめくります。タイミングがずれたりしたら、演奏に影響が出てしまいますので責任重大。

何が恐いといって、一番恐いのは譜面が追えなくなってしまう事です。あるのですよ、たまに。ふと集中力が欠けて、ん?と思うとどこを弾いているのかわからない。必死に楽譜を目で追うのですが、どうしても見つからない。まだ、ページをめくってすぐなら時間に余裕があるから良いのですが、もう最後のページに入っている時など、もうパニックのようになってしまって余計にわからなくなってしまいます。昨日も、一回、ピアニストがこちらを振り返ってにっこりなさったので「うわっ、申し訳ございません」と慌ててページを。

リハーサル参加の結果、本番も私が譜めくりを務めさせていただく事になったのですが、どうか、足を引っぱるような事なく、無事に終える事ができますように。

昨日はメンバーのお一人が持っていらっしゃるスタジオでのリハーサル。小さなお部屋で聴く室内楽は、空気の振動が身体に伝わるような迫力でとても素敵でした。譜めくりはあまり好きではありませんが、「シューマンも、ブラームスもお好き」でございます。